ランチョのチャレンジョイ!

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アクアスロン大会で参加者の男性が亡くなった件について

先日、都内で開催されたアクアスロン(水泳+ラン)の大会で50代男性の参加者がスイム中に溺れて亡くなられました。本当に残念で悲しい事故です。まずはその方のご冥福をお祈りいたします。まだ若いのに、これから先があったのに、この大会にエントリーしていなければ今も生きていたのに、と思うと悲しい気持ちになります。しかしどう思っていても時間は戻せませんし、命は返ってきません。ならば今後、同様のことが起きないためにどうするのかが自分の今できるせめてもの行動だと思いこの記事を書き始めました。

今回は現地で実際に救護に関わった者として感じたことについてお話したいと思います。

今後もマラソン大会やトレイルラン、トライアスロンなど市民の参加できる大会は全国で開催されていきますが、そこで今回のような事故で命を落とす参加者が出ないように、いち市民ランナーとして、いち医療従事者として言えることがあるのではないかという思いで、ここに書き残すことにしました。

 

はじめに書いておきますが、この大会の救護体制がどうであったかとか、事故発生時の状況がどうだったかは僕はわかりません。なのでもちろん何も言及することができませんし、意見する資格もありません。

 

当日僕は、この大会に参加するチームメイトの応援のために現地に向かっていました。現地に到着した時にはすでに大会は始まっていました。到着してまもなく、僕の耳に入ってきたのは「CPAだ!」という声でした。

CPACardiopulmonary arrestというのは医療用語で心肺停止状態のことを指します。僕は普段、医療施設に勤務していて心肺蘇生の経験も過去にあったので、何か役立てることがあるかと思い、ひとまず現場に向かいました。

現場はスイムのスタートとゴールとなる水上のデッキでした。男性はすでにCPR(心肺蘇生術)を施されている状態でした。僕は自分の職種を伝えた上でCPRに加わりました。まもなく男性にはAEDが装着されました。AEDは自動で不整脈を感知して必要に応じて電気ショックを実施してくれるものですが、男性にはその適応がありませんでした。つまり、電気ショックが必要な不整脈が起きているのではなく、心臓がまったく静止した状態(あるいはそれとほぼ同じ状態)でした。

そこにいた救護スタッフと僕は懸命にCPRを続けましたが、救急隊が到着して搬送されるまで結局一度も心拍再開の兆候は見られませんでした。そして同日夜、ニュースでその男性がお亡くなりになられたことを知りました。本当に残念でなりません。

過去にもトライアスロンの大会のランの部で倒れた男性にCPRを実施したことがあります。その時は救急車が到着して搬送される前には心拍が再開していました。心肺停止の時間がゼロでは無かったと思われるので、その間に血流が途絶えた脳やその他臓器のダメージは少なからずあったとは思います。が、搬送される時点で心拍が再開していて到着した病院で適切な治療が施されたならば命は助かった可能性がかなり高いはずです。最終的にその後その男性がどうなったかは知りようがありません。しかし少なくともその当時、その大会で死亡者が出たニュースはありませんでしたのできっと命を落とさずにはすんだのだろうと思います。

体を酷使するマラソン大会や、さらにはそこに水泳といった水の事故の可能性が含まれるトライアスロンアクアスロンにおいては、心肺停止のリスクが常につきまといます。大げさでなく、それほど多くの大会に出ているわけでもない僕ですら先述したようにトライアスロンの大会でCPAの現場に遭遇していますし、4月の宮古島トライアスロンでは60代の男性がスイムで、5月に参加した館山のトライアスロンでもスイムでお亡くなりになられた方がいました。かなりの頻度でこのような事故は起こる、ということを前提に考えなければいけないと思います。それは大会主催者だけではなく、参加者やその周りの人たちも。

心肺停止の状態に陥っても、すぐに適切なCPR(心肺蘇生術)が実施できれば救命できる可能性は高いです。マラソン大会やトライアスロンに参加できるコンディションでの心肺停止ですから、多くの基礎疾患があったり何らかの病気が原因で心停止した高齢者の場合とは状況が違います。いかに迅速に、適切なCPRを実行できるかが救命の鍵になると思います。

そのために大会主催者や僕たちができることはなんでしょう。このような事故が起こるたびに考えてしまいます。今もまだ、考えがまとまっているわけではないのですが、少し下記に記してみます。

 

大会主催者へのお願いしたいこと

大会主催者による救護スタッフの配置は非常に重要です。救護は実際に起こるものとして予めシミュレーションを実施するなどして、心肺停止時に速やかにCPRが実施できるようにすべきです。募集した医療従事者が実際にCPR経験を持つのかどうか、そのあたりのチェックもしておくべきです(CPR経験がないから救護スタッフとして役立てないということはありませんが、ある程度経験者がチームにいないと心肺停止時にチームが機能しません)。

救護スタッフはコース上のどこにでもいるだけではありません。しかし心肺停止はコース上のどこでも起こりうるものです。なので、救護スタッフだけでなくコース案内のボランティアやエイドなどのスタッフにもCPRを実践できるBLS資格保有者(※BLSとは)をある程度の割合で配置すると良いでしょう。

それでも参加者はどこで倒れるかわかりません。ボランティアの方がいないようなところで倒れる場合も想定して、全参加者にはBLSの受講を促し、大会参加者のうち一定の割合でBLS資格保有者がいるようになると心強いです(そういった基準を業界的に設けてはいかがでしょうか)。

トライアスロンアクアスロンのようにスイムを含む大会は心肺停止の危険度も高くなります。今回のように参加者が溺れてしまった場合、CPRが実際に開始されるまでに時間を要することが多いです。また、救急車がすぐに現地入りできないような場所で開催される場合もあります。そういった状況も踏まえて、現地でいかに迅速にCPRが実施できるかを徹底的に検証しておくべきです。水上で待機するレスキューは不足していないか。レスキューの連携は円滑に図れるようになっているか。人件費の問題はあるでしょうが、人の命には替えられません。十分かつ適切な人員配置を検討していただきたいです。

 

参加者やその周りの人々へのお願い

「BLSを受講してください」の一言に尽きます。あなたやあなたの周りの人たちがCPR(心肺蘇生術)をできるようになると、それだけ救える命が増えることになります。マラソン大会だけでなく、日常のあらゆる場面で役立つスキルです。心臓マッサージができる、AEDが使える、それだけで救える命がたくさん増えます(逆に迅速なCPRが受けられず亡くなる方が現状、たくさんいます)。各地の病院や消防署、あるいは自治体主催による講習会などがありますので、ぜひ今これをお読みでまだ受講したことがない方は一度、BLS講習会に参加してみてください。

また、医療従事者として、いち市民ランナーとして同じ市民ランナーのみなさんにお伝えしたいです。どんなすごい記録よりも、周りの人たちはあなたが無事に家に帰って、翌日からも日常生活を送り、笑顔で過ごすことを願っています。1秒を削り出す努力、血のにじむような鍛錬を否定はしません。すごくかっこいいと思います。しかしそれも、命あってのことです。絶対に大会当日に死なないでください。前日に深酒をしない、当日体調不良を感じたら無理せず休む。DNSやDNFはカッコ悪いことではありません。生きていればまた挑戦することができます。どうか生きておうちに帰ってください。

 

以上、感じたことや以前から大会に参加していて思っていたことなどを書き連ねました。言葉足らずや表現力不足でわかりづらい点などもあるかと思いますが、とにかくこのような悲劇がもう起きてほしくないという思いで書かせていただきました。また少し時間が経って落ち着いてから、場合によっては追記など検討します。

 

御本人は無念だったと思います。ご家族の気持ちを考えると胸が締め付けられます。今後、このような悲しい事故が起こらぬよう、いち市民ランナーとしてできることを考えて実行していきたいと思います。この男性とご家族のためにお祈りいたします。